これまで以上にロスフラワー®への関心が高まっています。廃棄されてしまう花の現状と、問題に対して私たちができること、RINの取り組みを紹介します。
ロスフラワー®とは?
ロスフラワー®とは花農家〜卸売市場〜生花店といった流通過程においてまだ綺麗なうちに廃棄されてしまう花のことを指します。
2017年、生花店で働いていた弊社RIN代表の河島春佳は、クリスマスの翌日にゴミ袋いっぱいに捨てられた300本のバラの花を目の当たりにしました。
「まだ綺麗なのに、捨てられてしまう花をどうにかしたい。私だったら、このバラを活用できる!」
そんな使命感を胸に秘めた河島はそのバラを引き取り、以前から作り方を学んでいたドライフラワーのブーケにして、翌月のイベントに出店して販売しました。このとき河島は「まだ美しいのに廃棄されてしまう予定の花」に「ロスフラワー」と名付けました。
2019年に「ロスフラワー」にスポットを当てるべく「株式会社RIN」を設立。2021年に人や地球環境に配慮した企業として「ロスフラワー®」の商標を登録しました。
商標権者 | 商標 | 登録番号 | 登録日 |
株式会社RIN | ロスフラワー | 第6384168号 | 令和3年4月30日 |
株式会社RIN | フラワーサイクリスト | 第6354362号 | 令和3年2月19日 |
ロスフラワー®の現状
ロスフラワー®は花が生産され、販売、消費者に届いたあと、というように、多くの過程において発生します。
例えば花農家。野菜と同じで花も茎が曲がってしまっていたり、蕾が小さかったりするものは市場に出せません。出荷するには厳しい基準があり、花の価値、価格、相場を形成するためにはなくてはならないものです。基準を守ることは農家の信用や評価にも関わります。一方でこの基準から外れてしまったものは「規格外」として、廃棄されてしまいます。
無事に出荷された花も輸送中に傷んでしまったり、売れ残ったりで、卸売市場や生花店で一定数が捨てられてしまいます。河島のロスフラワー®の活動の原点になったのも、店舗で廃棄された花でした。
そして消費者の元に届いたあと。例えば結婚式場でアレンジメントなどで使った短い茎の花は、一度限りでその役目を終えてしまいます。
いま花の廃棄が注目され始めた理由
ロスフラワー®の問題は今に始まったことではなく、花き(鑑賞用の植物)業界では長年の課題でした。
例えば「フードロス」といった言葉は早くから広く知られており、消費者にとっても身近な社会問題として、様々な取り組みが行われていました。一方で花の場合、産直販売の仕組みが確立されておらず、「生活の必需品ではない」と見られることもあり、問題が取り上げられることは多くありませんでした。
しかし2020年にコロナ禍で多くの式典やイベントが中止となり、たくさんの花が行き場を失ってしまったことがニュースなどで伝えられるようになったことで、廃棄される花の問題が注目を集めるようになりました。
さらに後述する様々な団体やRINを含めた企業の活動によって、少しずつですがロスフラワー®の認識は広がっています。
花の廃棄量
一説によると生花の廃棄は花農家などの生産者の段階で年間生産数の1〜2割、出荷された花も約3割が卸売市場や生花店でロスしていると言われています。
農林水産省による「令和5年産花き生産出荷統計」によれば、切り花類の出荷量は30億2,800万本と報告されています。

この出荷量を元にその3割が廃棄されていると仮定するなら、年間約9億本の切り花が捨てられていることになります。出荷できなかった生産段階のもの、装飾などで利用され短期で廃棄されるものまで含めると、その量はさらに増えると予想されます。
ロスフラワー®の原因
なぜここまでロスフラワー®が増えてしまい、長年課題として認識されながらも、抜本的な解決に至っていないのでしょうか。
花の廃棄には複数の原因があると考えられています。以下ではその一部を紹介します。
1. 厳正な規格
先述のとおり収穫した生花の1〜2割は出荷されずに捨てられます。厳格な出荷の規格(基準)が、ロスフラワー®を増やしているのは事実です。茎の長さ、太さ、曲がり具合、花びらの数など、花が出荷されるためにはいくつもの厳しい基準をクリアしなければいけません。
ただこの基準があることによって花の価値や価格が維持されていることも確かですので、一概に基準を緩くすれば良い、という話ではありません。
2. 企業需要の高さ
日本では冠婚葬祭やイベントなど、「個人消費」よりも「業務用」として使われる花の比率が高いことも、ロスフラワー®の原因の1つとされています。
例えば茎が一定以上の長さのものや、まっすぐな形をしたものの方が、業務用としては使いやすく、ニーズが高いです。つまり業務用の比率が高まるほど「規格外」とされて廃棄されてしまう花が増えてしまうことになります。
2024年11月に農林水産省が公表したデータによると、日本における直近の花き消費額の推計は1.2兆円、そのうち業務用の需要は2,491億円で約20%に上ります。
ちなみに海外では日本よりも個人需要の割合が高い国が多く、それらの国では花の廃棄量は少ないと考えられます。
3. 需要の不確実性
上記の「業務用」としての比率が高いことは規格外の花が生まれやすいだけではなく、イベントなどの中止による花の大量廃棄の可能性を高めます。
極端な例ではありますが、コロナ禍では花を使う式典やイベントのほとんどが中止されたことで、約20%の企業需要がほぼゼロになりました。企業との取引がメインだった販売店や業者は、花のロスだけでなく、厳しい経営にも直面しました。
また業務用としての比率が高いことは、景気や経済状況によっても、ロスが生まれやすくなるという脆さを秘めています。
4. 需給のバランス(供給量の多さ)
需要と供給のバランスが取れておらず、供給過多によって廃棄が生まれてしまっていることも事実です。
花き業界でよく「プロダクトアウト型」と呼ばれる生産方式が採用されてきたと言われます。これは消費者のニーズよりも生産者の計画や論理を優先させる方式を指します。簡単に言えば「生産者が好きなものをつくり、できたものを売る」というやり方が、長年続いてきたということです。
消費者のニーズが起点になっていないこの方式では、供給量が多くなってしまいがちです。
5. 花の性質・流通の構造
花は生物であり、一定のロスが生まれてしまうことはやむを得ません。花は生産者、卸売市場、生花店へと流通し、消費者の元へと届けられます。この間にかかる時間が長ければ長いほど、花の廃棄量は増えてしまいます。
ロスフラワー®問題を解決するために私たちができること
ここまで見てきたように、ロスフラワー®の問題は複数の要因が絡み合っており、様々なアプローチによって、少しずつ変化を起こしていくことが求められています。
ここでは個人レベルでできることや、問題を解決するために活動する団体・企業、そして私たちRINの取り組みを紹介します。
花の個人消費を増やす
先述のとおり日本では、企業や業務用の花のニーズが高い傾向にあり、日の目を見ず廃棄されてしまう規格外の花の割合が多いです。
規格外とは言え、その花の持つ本質的な美しさに変わりはありません。個人が鑑賞するには全く問題がない花の消費量を増やすことは、花の廃棄量を減らすことにつながります。
日本における切り花の個人消費量は長期的に見れば減少傾向にあります。しかし各団体・企業の花を広める取り組みや、消費者の生活様式、意識の変化もあってか、近年は横ばいまたは上昇に転じるなど、良い兆しが見え始めています。

ロスフラワー®に対する企業・団体等の取り組み例
ロスフラワー®の解決につながる、花文化を広める取り組みが各所で行われています。
農林水産省「花いっぱいプロジェクト」

2027年に横浜市で開催される国際園芸博覧会を前に、花や鑑賞植物が身近に感じられる活動や発信を行っています。
東京都「TOKYO エシカル」

東京都とエシカル消費につながる取り組みを行う企業や団体がネットワークを構築し、エシカル消費を実践しやすい環境の整備を目指す取り組みを行っています。RINもこの趣旨に賛同して参画しています。
一般社団法人 フラワーライフ振興協議会

花文化の発展と心身と社会的な健康であるウェルビーイングの実現を目指して活動する団体です。農林水産省の「公共施設等における花きの活用拡大支援事業」を受託。ロスフラワー®を生産者から買い取り、公共施設や歴史的な建造物で使用するイベント等を行っています。
フラワーバレンタインなど

くらしに花を取り入れるための新しい需要の創出・普及が行われています。
フラワーバレンタイン -FLOWER VALENTINE 2.14- 花は自由なラブレター
RINの4つの取り組み
RINではロスフラワー®の削減につながる様々な取り組みを行っています。
①ブランディング事業

ロスフラワー®を含む花を活用し「企画・コンセプト立案」「クリエイティブ制作」「空間装飾および装花」「ノベルティ企画制作」「イベント実施」による総合的なブランディング支援を行っています。
これまでに三つ星ホテル、老舗百貨店、全国の商業施設など、様々な提案を行ってきました。
②フラワーサイクルマルシェ・RIN マルシェ

花の廃棄への関心が高まる中で「ロスフラワー®はどこで買えますか?」というお問い合わせをたくさんいただくようになりました。そこで2020年4月に花農家と消費者の架け橋としてロスフラワー®を購入できるオンラインショップ「フラワーサイクルマルシェ」を開設しました。
花農家から直送される規格外のロスフラワー®や、パートナー企業とコラボしたドライフラワーなどのアイテムを購入できます。
産地から直送されることで捨てられるはずだった花が購入できることはもちろん、間の流通を省くことで、より長く、きれいな花を楽しむことができます。
またドライフラワーなどのグッズを購入いただくことでも、間接的にロスフラワー®の問題に対して支援できる仕組みになっています。
Flower cycle marche(フラワーサイクルマルシェ)の詳細
さらに2024年10月には初の常設店「RIN marche(リン マルシェ)」を世田谷にオープンしました。
③フラワーキャリアアカデミー

RINは「循環の輪(わ)を意識し、アップサイクルすることで、花のロスを減らしたい。」という想いに共感した、ロスフラワー®にさらに価値を与える人のことを「フラワーサイクリスト®」と呼んでいます。
フラワーサイクリスト®としての働き方に興味がある方、好きな花を本気で仕事にしたい方に向けたコミュニティでありオンラインスクールである「フラワーキャリアアカデミー」を運営しています。
④コミュニティ

フラワーサイクリスト®とともに、「エシカルな暮らし」「子供達への花育」といった発信を行っています。
ロスフラワー®を使った空間装飾の取り組み事例
RINがこれまで行ってきた空間装飾によるブランディングの一例を紹介します。
UNIQLO TOKYO

ユニクロのフラワーショップ「UNIQLO FLOWER」でロスになったドライフラワーをメインに活用し、サスティナブルクローズとして廃棄予定だった服に装飾しました。
■コンセプト
経年劣化をアンティークと思えるように、 服も、花も、ライフスタイルも同じ。
目の前にある、ありのままのカタチを「美しい」と捉え、 そこに、愛しさとアイデアを添えてみる。
それらはきっと、長く寄り添える新たな価値となるはずだから。 今、わたしたちから始めよう New Antique
六本木ヒルズクリスマスツリー「Bon-Bon Blossom」

TANGENT 吉本英樹氏が、チョコレートのボンボンショコラをイメージしてデザイン。RINは計30個のそれぞれのボンボンに、ロスフラワー®︎を一輪ずつ接着していき、白色に染め上げました。
■コンセプト
「緊急事態宣言の真っ只中の2021年の人々が、どんなクリスマスツリーを見上げたいか」の問いと向き合った吉本氏がデザインを着想。「静かに、気持ちが上昇するような、率直に美しいと思えるツリー」を目指した。コロナ禍でたくさんの廃棄された生花を使うことで、捨てられる運命だった花々が、再び美しい姿を見せる様を表現した。
有楽町マルイ エントランス装飾「The loss flower story」

有楽町マルイ1F エントランススペースに装飾を実施。ブルーやパープルをメインカラーに、紫陽花・スターチス・デルフィニウム等で、ナチュラルテイストに仕上げました。アフリカローズさんのロスフラワーをドライにしたバラを使用。紙を用いた螺旋状のオブジェは廃棄予定だった残紙に、コーヒーをドリップ後の出がしらで染めました。
■コンセプト
「〜 The loss flower story 〜 儚くも美しい世界の物語」。ロスフラワー®︎とあえて廃材を用いることで、“儚くも俯瞰して見れば美しく見える世界観” を表現。“人も花も同じように、それぞれスポットライトを浴びるべき主人公であることを感じて欲しい” という想いも込めた。
ロスフラワー®削減を通して実現したい「認め合う社会」
廃棄される花の問題にいち早く着目し「ロスフラワー®」と名付け、解決のために様々な取り組みを行ってきました。
私たちは人も花も同じだと考えます。現代の多様化する社会では、1人ひとりが互いにリスペクトし、違いを認め合い、配慮や気遣いを忘れないことが求められています。
花にも1輪1輪に特徴や個性があります。花びらや蕾が小さかったり、背丈が短かったり、茎が曲がっていたり……。私たちは従来の市場流通に乗れないこれらの花の特性や個性を愛でることが、花の流通の多様化、ひいてはロスフラワー®の削減にもつながると信じ、これからも活動を続けていきます。
ロスフラワー®を使った取り組みや空間装飾等をご検討の際は、RINまでお気軽にお問い合わせください。